ドールとライザップ (後編)
―プライベートジムを運営する「ライザップ」は20日、広告イメージキャラクターに沙織(さしき)さおりを起用すると発表し、都内で広告の写真撮影を行った。
―「ライザップ」は、ダイエットを主目的とするボディメイクを行うために、専属のトレーナーがマンツーマンで指導やサポートを実施する「完全個室のパーソナルプライベートダイエットジム」である。
―「結果にコミットする」をコンセプトに掲げる「ライザップ」では、筋肉トレーニングと糖質制限を同時に行い、筋肉を増やし基礎代謝を上げ、糖質の摂取量を管理することで、一日50分、週2回のトレーニングで効果が出るようプログラムされている。
―この日は、「ライザップ」を受ける前の体型チェックや写真撮影が行われた。
―それでは、沙織さん、早速ですが現在のお体を見せていただけますか?
分かりました。
―酷い体ですね。
そうですか?自分では、そんなに酷いとは思いませんが…
でも、お腹周りは、ちょっとシリコンが多いかなとは思っています。
―では、これより「ライザップ」を受ける前の「ビフォー」写真を撮りますので、力を抜いてリラックスしてください。
分かりました。
こんな感じですか?
―いい表情ですねぇ…あと、もう少し猫背になってください。
―ありがとうございました。本日の撮影はこれで終了です。あとは2ヶ月後、「ライザップ」を受けた後の「アフター」写真を撮影したら広告として発表します。
―念のため言っておきますが、もし、ボディメイクが失敗した場合、広告の件は白紙となり、ギャラも一切出ませんので、気合を入れて取り組んでください。
分かりました。頑張ります。
― 2ヶ月後 ―
お久しぶりです。
―おぉーっ!沙織さん、お待ちしておりました。
―では、結果をお見せいただく前に、まずは、2か月前の沙織さんの姿を見てみましょう。
―沙織さん、過去の自分を認めたくない気持ちは分かりますが、これが現実です。
そうですか…
―それでは早速、結果を見せていただきましょう!
分かりました。
どうですか!これが2ヶ月間「ライザップ」を受けた成果です!
―いやー、素晴らしいですね!
―気にしていたお腹周りも、見事に割れているじゃないですか!
ええ、頑張りました。
―では、「アフター」写真の撮影を行いますので、適当にポーズをとってください。
分かりました。
―以前より、表情が明るくなりましたね。
ええ、筋肉だけではなく自信もつきました。
―ありがとうございました。撮影は終了です。これで立派な広告が作れます。2ヶ月間、お疲れさまでした。
いいえ。
―私共のスタッフが、今撮影した「アフター」写真を、間違って「ビフォー」写真に上書き保存し、「ビフォー」写真が全て消えてしまいました。
えぇーっ!?
―パネルでは説得力が出ないので、お手数ですが、もう一度「太って」いただけませんか?
いや、ちょっと待ってください!
太るのは構いませんが、それだと「ビフォー」と「アフター」が逆になってしまいますよ。
―問題ありません。ダイエット広告では、よく使う手法ですから。
―沙織さんさえ黙っていてくだされば、誰も「ビフォー」と「アフター」が逆だなんて気づきはしませんよ。それに、「ライザップ」によって、その肉体を得た事実が変わることはありません。
そうですけど…
分かりました。では、1週間時間をください。それで元の体型に戻ってきます。
―お待ちしております。
― 1週間後 ―
―実は、この一週間、何とか写真を復元できないか色々試してみたのですが…
―ですから、もう一度最初から「ライザップ」を受けてください。
なん…だと…
なーんてね。全部ウソです。長くなったので、おまけはこちらから。
以上、ライザップ編でした。