ドールとABCマート (後編)


―株式会社ABCマートは25日、自社オリジナルの新ブランドシューズを発売すると発表し、都内でイベントを行った。


―ABCマートは、国内に784店舗を持つ「靴」の小売りチェーンで、ナイキやアディダスなどのメーカー製シューズはもちろん、自ら商品企画し製造した、自社ブランドシューズの販売も行っている。


―すでに、自社ブランド商品として、「Hawkins」「VANS」「NUOVO」などを販売しているが、今回発売するシューズは、どのブランドにも属さない、新たなブランドとして発売される。


―イベントには、グラビアアイドールの沙織(さしき)さおりが登場。以下、イベントの様子をご覧ください。


―それでは、早速、新ブランドのシューズを紹介したいと思います。

楽しみですね。


―こちらです!

おおーっ!厚底スニーカーシューズですか!


―どうぞ、手に取ってご覧ください。

分かりました。


あっ!軽いですね。

―ええ、今回、新ブランドを立ち上げる際、最も重視したのが軽さです。


―この軽さを実現するため、ある素材を使っているのですが、何だか分かりますか?

うーん…分かりません。


―実は、そのシューズは全て「紙」でできているのです。

えーっ!?紙ですか!水に濡れたらどうするのですか?


―もちろん、防水処理は施してありますので、水に濡れても大丈夫です。

でも、耐久性はどうなのですか?すぐ破けたり、穴が空いたりするんじゃないのですか?


―ご心配なく。紙といっても1枚の紙でできているわけではありません。材質の異なる紙を幾重にも重ねて強度を保ち、ダンボールの様に波型の紙を間に挟むことで、衝撃を吸収する仕組みになっています。


―ですから、日常的な使用で穴が空いたり、破けたりすることはありません。

なるほど。見た目とは裏腹に、色々な技術が詰まっているのですね。


―そういえば、まだ、このシューズのブランド名を発表していませんでしたね。ちなみに、沙織さん、どんなブランド名だと思いますか?

えっ!?ブランド名ですか?そうですねぇ…


ペーパーシューズだから「P'z」とか?

―違います。


―先ほども言いましたが、このシューズは紙を幾重にも重ねて作られています。紙を重ねる…


―「カミシゲ(紙重)」です!

カミシゲですか!


―さらに、この「カミシゲ」の特徴は軽さだけではありません。紙を使用したことによりコストを抑え、安く提供することができるのです。

へぇー、いくらですか?


―お値段、何と1億7000万円…

えっ!?


―の100000分の1の「1700円」です。

なんだ、ビックリした。1700円ですか。


あっ!そういえば私、ちょうど今1700円ピッタリ持っているんですよ。ぜひ、この「カミシゲ」を売ってください。

―申し訳ありません。1700円ではお売りできません。


なぜですか?今1700円って言ったじゃないですか!


―消費税ですよ!

アッ!


でも、消費税くらいサービスしてくれてもいいじゃないですか?

―それは、いけません!


―税金は、たとえ1円でも、きちんと国に治める義務があります。もし、税金を納めていないことが国税局に知られたら、「カミシゲ」は終わりです。発売中止になってしまいます。

そうですか…


分かりました。では、後日改めて購入させていただきます。

―お待ちください、沙織さん!


―どうしても、今この場で購入したいというのであれば、私共がお金をお貸ししましょうか?

本当ですか!?


―ただし、無利子でお貸しできるのは1億7000万円までです。

十分です。ついでにマンションも買います。


―では、こちらの借用証にサインしてください。

分かりました。


あのー、一応サインはしましたが、こんな借用証で大丈夫なんですか?


―もちろんです。猪瀬元東京都知事の借用証と同じ書式の借用証ですから、何の問題もありません。

そうですか…。


―ということで、この「カミシゲ」は沙織さんのものとなりました。お買い上げありがとうございます。どうぞ、履いてみてください。

分かりました。


ピッタリです。

―よく似合っていますよ。


―ちなみに、全て紙でできていますから、用済みの「カミシゲ」は燃えるごみとして処分することができます。

それはいいですね。


履かなくなった古いシューズは、処分するのが面倒で、どんどんたまっていきますから。これなら下駄箱が…


「スッキリ!!」しますね!

―ええ、「スッキリ!!」です。


なーんてね。全部ウソです。
以上、ABCマート編でした。

- おわり -

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