ドールと気象庁 (後編)
―気象庁は10日、梅雨明け宣言が早過ぎるのではないか、との指摘を受け、緊急記者会見を開いた。
―気象庁は今月1日、全国的な梅雨明け宣言を発表したが、その後も大雨や豪雨が続き、民間の気象情報サービス会社から「まだ梅雨が明けていないのでは?」との指摘を受け、今回の緊急記者会見に至った。
この度は、緊急にもかかわらず、お集まりいただきまして、ご足労さまでございます。それではまず最初に、記者の方のお名刺をそれぞれ頂けますでしょうか?
―会見が終わってからじゃダメですか?
今、頂けますでしょうか。
―分かりました。読売テレビのサトウと言います。
つきましては、何とぞ、平常心を持って質問をしていただきますように、お願い申し上げまして、記者会見を、質問をお受けしたいと思います。座って、お受けさせていただきます。
―では、早速質問ですが、今回の梅雨明けは、どなたが宣言したものなのでしょうか?
私が宣言しました。
申し遅れました、わたくし「気象庁特命係」の沙織(さしき)さおりと申します。梅雨明け宣言及び神奈川県の天気予報を担当しています。
―特命係?…聞いたことのない部署ですね。
―では、沙織さん、私共が用意した資料がお手元にあると思うのですが、2ページ目をご覧ください。
えーと…
これですね。
―ええ、それです。その写真は梅雨明け宣言直後、湘南海岸で撮影されたものです。写真の男性は、気象庁、いや、あなたの梅雨明け宣言を聞いて、大変喜んでおりました。
―しかし、僅か1時間後、男性の顔は悲痛な表情に変わり「梅雨明けてないじゃないですか!やだー!」と叫んでいるのです。これこそが、梅雨が明けていない決定的な証拠ではないでしょうか?これについて意見をお聞かせください。
えー、この男性の心情はお察ししますが、この資料の大雨は梅雨ではなく、ゲリラ豪雨による局地的なものです。ですから、私の梅雨明け宣言は間違っておりません。
―しかしですね、あなたの梅雨明け宣言後も雨は降り続いているのですよ!これは、どう説明するのですか?
その件につきまして、私の見解を述べさせていただきますと、雨が降り続いているのはゲリラ豪雨が連続で広い範囲に渡って起きているもので、言うなれば「同時多発テロ豪雨」とでも言いましょうか…
―しかしですよ、そもそも、梅雨明け宣言後は晴れの日が続くとの予報でしたが、晴れの日どころか曇りの日も無いじゃないですか!ずっと雨ですよ。あなた、ほんとに天気を予想する能力があるのですか?
ですから…
天気予報はー!我が県のみウワッハッハーーン!!我が県のッハアーーー!我が県ノミナラズ!日本中の問題じゃないですか!
そういう問題ッヒョオッホーーー!!解決ジダイガダメニ!私ハネェ!ブフッフンハアァア!!誰がね゛え!誰が天気を予想ジデモ゛オンナジヤ、オンナジヤ思っでえ!
ウーハッフッハーン!!ッウーン!ずっと天気予報を信用してきたんですわ!せやけど!当たらへんからーそれやったらワダヂが!特命係になって!文字通り!アハハーンッ!命がけでイェーヒッフア゛ーー!!!
この世の中を!ウグッブーン!!ゴノ、ゴノ世のブッヒィフエエエーーーーンン!!ヒィェーーッフウンン!!ア゛ーーーーーア゛ッア゛ーー!!!!ゴノ!世の!中ガッハッハアン!!ア゛ーー世の中の天気予報を!ゥ変エダイ!その一心でええ!!ィヒーフーッハゥ。一生懸命調べて、縁もゆかりもない地域の市民の皆さまに、天気を予想してあげているんですううー!!!
―もう一度お聞きしますが、梅雨明け宣言は正しかったということでよろしいのでしょうか?
えー、サトウ記者のご質問に答える前に、会見の冒頭で、感情的にならないように記者の皆様にご注意申し上げましたのに、自分自ら感情的になりましたことを、まず、ここでお詫び申し上げます。
そして、質問に対する答えですが、梅雨明け宣言は正しかったと信じております。これで、本日の会見は終了します。ありがとうございました。
では、失礼します。
―ちょっと待ってください!沙織さん!質問はまだ終わっていませんよ!