ドールとオリンピック (後編)

―第31回 オリンピック競技大会が、ブラジル・リオデジャネイロで開催され、17日間の熱い戦いが始まった。

―大会3日目、競泳女子200m個人メドレーの予選に、日本の沙織(さしき)さおりが登場した。

―沙織さおりは、オリンピック競泳史上初の「ビキニ」での出場を宣言しており、議論が巻き起こっている。
―― 予選終了 ――

―おめでとうございます、沙織さん。見事1位での予選通過となりました。髪をバッサリ切って挑んだ甲斐がありましたね。
ええ、ありがとうございます。

―だから、あれほど「ビキニ」での出場は危険だと言われていたじゃないですか!
すみません…

水泳大会に「ポロリ」は必要かと思って…
―オリンピックに、そういうのはいりません!

―まったく、しょうがないですねぇ…これを首から掛けてください。
何ですか?

メダル…ですか?
―もちろん、本物ではありません。とにかく掛けてください。

―沙織さんを「手ブラ」で帰すわけにはいきませんからね。
ありがとうございます。
―― 準決勝終了 ――

―おめでとうございます。ついに決勝進出ですね。
ありがとうございます。

―今回は、水着が脱げていないようなので安心しました。
いえ…実は…

―まったく、しょうがないですねぇ…これを首から掛けてください。
何ですか?

―沙織さんを「手マン」で帰すわけにはいきませんからね。
ありがとうございます。
―― 事件発生 ――

「沙織さおりさんですね?わたくし、こういう者です。」
えっ!?警察の方…私に何か用ですか?

「これ、あなたの水着ですよね?」
あっ、そうです!見つけてきてくれたのですか?

「排水溝に引っかかっていました。」
そうでしたか、ありがとうございます。

この水着は、今回のオリンピックのためだけに作った、世界でたった1着しかない特注品なんです。いやー、見つかって良かった。

「ところで、沙織さん、あなた、予選が終わってから準決勝が始まるまで、どこで何をしていましたか?」
え?予選が終わってからですか…自分の控室で休んでいましたけど…

「実は、その時間、このインタビューブースで、記者のカメラが盗まれるという窃盗事件が起こりまして…」
はぁ…

「我々が聞き込み調査をしたところ、沙織さんが、ここで何かをしているのを目撃した人がいたのですよ。」
えっ!?

「そこで、沙織さんのコーチの許可を得て、先ほど準決勝が行われている間、沙織さんの控室を調べたところ…」

「なんと、沙織さんのバッグから、盗まれたカメラが出てきたのですよ!」
えぇーっ!?

「どういうことか、説明していただけますか?」
た…確かに、ほんの数分ですが、このバッグを持って、一人でこのインタビューブースに来ました。

でも、私は盗んでいません。誰か…そう、アジア系の知らない誰かが、私のバッグに何かを勝手に入れたんです。

私はゴミを入れられたのだと思い、すぐに捨てようと思いましたが、ゴミ箱が無かったので、そのまま控室に持って帰ったのです。

「そうですか…では、これはどう説明するのですか?」
何ですか?

「これは、窃盗事件があった時刻の防犯カメラの映像を拡大したものです。」

「これには、ハッキリと、あなたがバッグにカメラを入れる瞬間が映っているのですよ!」
えぇーーっ!?

いや、ちょっと待ってください!顔が、顔が映っていないじゃないですか!これでは私が犯人だという証拠にはなりませんよ!

「先ほど、あなたは、その水着が世界でたった1着しかない特注品だと言いましたよね?それと同じものを着た人が、この映像に映っているのですよ!あなた以外、他に誰がいるというのですか!」
ぐぬぬ…

ちょっと待ってください!いきなり逮捕だなんて、こんなことが許されると思っているのですか!

今すぐ手錠を外し、私を開放しなさい!
「それはできません。これだけ証拠が揃っている以上…」

「手錠を外して、『手ぶら』で帰すわけにはいきません!」
そんな…











